COLUMN コラム

コラム Vol.10

若き音楽家たちの挑戦【KJO第24回定期演奏会】

2025年8月31日(日)、香川県のレクザムホール大ホールにて「かがわジュニア・フィルハーモニック・オーケストラ(KJO)」の第24回定期演奏会が開催されました。
平成13年度から活動を続けるこのジュニアオーケストラは、地域の小中高生を中心に構成され、香川の音楽文化を支える存在となっています。今回は、OB・OGを含む団友や指導者を合わせて80名以上による演奏。指揮者に平井秀明先生を迎え、ベートーヴェンの序曲「コリオラン」や交響曲第6番「田園」、ワーグナーの楽劇より第1幕への「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲など、重厚なプログラムに挑みました。

開演、赤い譜面台が並ぶステージ
 
午後2時、赤い譜面台がずらりと並ぶステージに、整列して団員たちが入場。大きな拍手で迎えられる中、最後尾から登場したのは1番目のコンサートマスター樋笠麻衣さん(18歳)。卒業を迎える年にコンサートマスター(指揮者の意図を楽団員に伝えるなどの役割を担う演奏全体のまとめ役)を務める彼女は、ステージ中央で客席を見上げた後、深く一礼し、チューニングを始めました。指揮者の平井先生と固く握手を交わすと、いよいよ演奏の幕が上がります。



 
■樋笠麻衣さん ― 家族の次に大切な居場所
 
小学3年生で入団して9年、KJOと共に歩んできた樋笠さんは、このオーケストラを「家族の次に大切な居場所」と語ります。
「父の転勤で一度退団したのですが、高校入学の時に戻った時、『おかえり』と温かく迎えてもらえたことが心に残っています」
 


活動は、基本的に毎週パートごとに集まり、月に1度全体で合奏を行うスタイル。年に一度の定期演奏会に向け、仲間たちと練習を積み重ねてきました。バイオリンを始めたのは6歳、そして9歳でKJOに入団。先生が指導者を務めていたことや、台湾との交流事業に憧れての入団でした。
「KJOの活動で2度参加した台湾での演奏は、日本とはまた違う合奏のやり方を経験でき、すごく勉強になりました。帰国したとき両親に『一皮むけたね』と褒めてもらえたことが自信につながりました」
 
コンサートマスターとして迎えた今年の舞台。彼女はただ自分の演奏を磨くだけでなく、団員同士の橋渡し役としても大きな役割を担いました。
「小さい子が人見知りで困っていたら、『分からないことがあったら言ってね』と声をかけるようにしています。先生からの変更点があれば楽譜に反映できるようすぐ伝えてあげたり、その中で自然とコミュニケーションが生まれるんです」
 
特に今年のプログラムは難曲揃い。仲間とのやり取りを通して、樋笠さんはリーダーとしての責任を実感したといいます。
「どうしたらもっとなめらかに弾けるか、どうしたら弾きやすくなるかを相談し合い、アドバイスを出し合いながら進めました。みんなで工夫を重ねる時間そのものが宝物でした」
 
なかでも特に苦戦したというのが「田園」。
「有名な1楽章だけでなく、全5楽章にそれぞれの表情があります。大曲ですが、みんなで一生懸命練習した成果を聴いていただきたいです」
 
音楽系の道に進む仲間も多い中、樋笠さんは文系の大学へ進学予定です。
「またOGとして戻ってきたいです。将来は香川の音楽の魅力やこんな活動をしているんだと広く伝えられる仕事をしたいです」
 
卒業の年にコンサートマスターを務めることができる喜びを胸に、最後の舞台で仲間を率いた姿は、まさにKJOを象徴する存在でした。


 
■石川花奈さん オーボエでソロに挑戦
 
17歳の石川花奈さんは、この日「田園」で重要なソロを担当しました。
「フルートの伊藤亜花莉さんとの掛け合いがあり、タイミングを合わせるのが難しかったんです。でも一緒に練習を重ね、本番では完璧に演奏したいと思っています」
 
中学時代、サックスが吹けなかったことをきっかけにオーボエを勧められたという石川さん。今ではその繊細で深みのある音色でオーケストラの一員として輝いています。
「学校ではオーケストラを経験できる機会が少ないので、KJOに入って本当に良かった。将来は音大に進学して音楽の道に進みたいです」と目を輝かせて語ってくれました。

 
■泉茉李奈さん ― 練習を乗り越え舞台へ
 
バイオリンを担当する泉茉李奈さんは、演奏を前に少しだけ緊張した表情も見受けられました。
「お客様に見てもらうことを意識して、強弱や表現に気をつけて演奏しました。毎週早朝からの練習は大変でしたが、今日はこの舞台に立ってがんばりたいです。」
小さな積み重ねが、この大舞台での音色に結実しています。
 



演奏プログラムのハイライト
 
最初に披露されたベートーヴェンの序曲「コリオラン」は、重厚な低音から始まり、ホール全体を緊張感で包みました。続くワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第一幕への前奏曲では、壮大な旋律が広がり、最後のトライアングルの軽快な響きが高揚感を生み出しました。
 
そしてクライマックスの交響曲第6番「田園」。1楽章のおなじみの穏やかな旋律から始まり、嵐を描く第4楽章、喜びに満ちた第5楽章へと移る展開は、聴く人々の心を大きく揺さぶりました。特に石川さんのオーボエソロとフルートとの掛け合いは、観客の心をつかむ見事な演奏でした。



 
アンコールで一体感に
 
演奏後、平井先生が客席に「1年間積み上げてきた成果は出ていましたか?」と語りかけると、会場から大きな拍手が返りました。アンコール1曲目では観客の手拍子を指揮で導き、一体感に包まれました。最後は童謡メドレー「夕焼け小焼け」「七つの子」「ふるさと」を会場全体で歌い上げ、演奏会は温かな余韻とともに幕を閉じました。

 

KJOという居場所
 
KJOには現在約50名が在籍し、5歳から入団する子もいます。入団にはオーディションがあり、数名の先生の前で練習曲を弾きます。こうして入団した団員たちは、毎週のパート練習や月一度の合奏で音を合わせ、年に一度の定期演奏会を目標に努力を積み重ねています。
 
特徴的なのは、OB・OGが指導者として戻ってくること。世代を超えて音楽を支え合う仕組みが、演奏の質を高めると同時に、地域に根ざした「音楽の輪」を広げています。

 
次代を担う音楽家たちへ
 
音楽の道に進む人もいれば、別の進路を選ぶ人もいます。しかしここで過ごした時間は、技術以上に「仲間と音を合わせる喜び」を教えてくれます。樋笠さんが語る「OGとして戻りたい」という思いには、KJOが一つの音楽団体を超えて「心の居場所」となっていることがよく表れていました。
 
今回の定期演奏会は、若き音楽家たちが懸命に積み上げてきた努力と、音楽を愛する心が響き合った舞台でした。
 

かがわジュニア・フィルハーモニックオーケストラ第24回定期演奏会

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INFORMATION

レクザムホール(香川県県民ホール)
住所:香川県高松市玉藻町9-10
TEL:087-823-3131

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